セキュリティ専門オンラインメディア「Security NEXT」でエグゼクティブプロデューサーを務める武山知裕氏を聞き手として迎え、弊社代表の近藤憲と「サーキュラー・エコノミー」の現状やアフターコロナ時代における役割について対談しました。

政府は新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言について、2020年5月25日に全国で解除することを発表しました。解除となりましたが、引き続き感染予防に十分配慮した上で、本撮影・インタビューを実施しております。

一流企業が再生端末を愛用? 意外な欧州のサーキュラー・エコノミー事情

武山:今回は、日本で「サーキュラー・エコノミー」に取り組んでいる近藤さんにお話を聞けるとのことで楽しみにしていました。近年、国際的に環境保護への意識が高まり、とりわけEUで「サーキュラー・エコノミー」の活動が進んでいます。近藤さんは実際に現地に足を運んで視察をされたそうですね。

セキュリティ分野のジャーナリストである武山知裕氏
セキュリティ分野のジャーナリストである武山知裕氏

近藤:最初にヨーロッパを視察したのは4年前(2016年)です。2050年までに「サーキュラー・エコノミー」を実現し、循環型社会に移行すると宣言したオランダをはじめ、ドイツ、フランスなどを巡り、現地で企業などの取り組みを視察してきました。

視察中、特に印象に残ったエピソードがありました。世界的にも有名なある大手証券会社の営業担当者とお会いしたとき、スマートフォンを見せていただいたのですが、「会社から支給されたこの端末は、再生したものなんだ」と教えてくれたのです。再生端末が法人利用でも当たり前に受け入れられていることに驚きました。

武山:それは意外ですね。世界トップクラスの企業ともなると、最新端末を導入していてもおかしくないように思いますが。

弊社代表 近藤
弊社代表 近藤

近藤:話を聞いてみると、証券会社の営業担当者にとっては、最新機器が持つ高い処理能力は業務に必要なく、顧客とスムーズにコミュニケーションできる機能があれば問題ないのです。そういうニーズには再生端末で十分なんですよね。

彼らはとても合理的な考え方でビジネスを進めています。その考え方の延長で、パソコン、スマートフォンなどの機器をアセット(資産)として組織で管理し、業務に応じて使い分けています。
こうした取り組みは、環境保護はもちろん、会社のリソースを無駄なく利用してコストの削減を図ることでもあり、株主などステークホルダーに対する責任としても認識されていました。

武山:なるほど。不必要にハイスペックで高価な端末を購入することが、むしろ「過剰な投資」と見なされてしまう恐れもあるということですね。

近藤:そうです。たとえば3年間で終了する計画のプロジェクトを立ち上げたとします。その際に用意する端末は、プロジェクトが動いている間だけ問題なくこなせる能力があることが大切で、業務内容によっては安い再生端末で間に合うというケースも多々あるでしょう。そしてプロジェクトが終了したときに、また再利用できるプロジェクトがあればそこで活用していく。これがまさに循環です。

それから、彼らがパソコンをアセットとしてポートフォリオで管理していたのも印象的でした。つまり、「ビジネス」と「サーキュラー・エコノミー」が不即不離の関係にあるとわかっているんですね。「サーキュラー・エコノミー」の考え方が浸透している文化を見て、環境対策はもちろん、グローバルでビジネスを勝ち抜く上で「サーキュラー・エコノミー」の戦略が重要になると直観しました。

単なる「再利用」ではない。品質を重要視する「サーキュラー・エコノミー」

武山:国内の企業でパソコンを入れ替える場合、一律に新品を導入することも多いようですね。製品の品質を気にしているようにも思います。

近藤:もちろん、ヨーロッパの企業も環境面やコスト面だけで再生端末を選択しているわけではありません。ビジネスで安心して利用するには、用途に応じた性能にするためのアップグレードやメインテナンスが不可欠です。先ほど紹介した証券会社も、きちんと整備された品質の高い再生端末を選んで導入しています。

それにヨーロッパは、消費者の権利保護に対する意識がとても高いのが特徴です。再生端末を販売する場合、事業者は消費者に対し、端末のCPUやメモリ、ストレージなどのスペックやパフォーマンスだけでなく、外観の状態、動作確認結果、メインテナンスやアップグレードの情報などを明確に説明しなければなりません。きちんと整備された再生端末であれば、その品質は新品と比べても大きな差は感じられないでしょう。そして新品より価格が安いわけですから、あとは企業がどちらを選択するかという、購入側の判断となります。

武山:ヨーロッパでは国も消費者保護を後押ししています。消費者も、品質が確認できれば安心して利用できますね。ところで国内でも中古パソコンが販売されていますが、ヨーロッパと比べていかがでしょうか。

近藤:国内でもリース契約を終えた端末などが市場に出回っています。ただ、製品に付加価値をつけて販売するようなケースは、一部店舗などで行われているかもしれませんが、まだまだ少ないようです。しかし、端末の状態を確認し、メインテナンスやアップグレードなど行えば、長く製品を活用できるはずです。しかし、動作の診断にノウハウが必要ですし、手間もかかるため、アップグレードなどは行われず、右から左へと転売されているのが現状です。

中古端末として出回っている場合も、CPUやハードディスクの容量など「表面上のスペック」を確認することはできますが、多くの場合、消費者が品質を客観的に把握するための情報は得られず、消費者は自分のカンを頼りに、選ぶしかないというのが現実ではないでしょうか。こういう環境では、会社でまとめて購入するのは難しいと言わざるを得ません。

武山:日本は、ヨーロッパと随分状況がちがいますね。

近藤:少し手をかけることで引き続き活用できるはずの端末が、多くは型番や使用年数、動作するか否かという点だけで評価され、非常に安い値段で海外に投げ売られています。国内で十分使える貴重な資源が、海外へ流出しているとも言えます。だからこそ、私たちは、コストを抑えて端末を整備し、客観的にも判断できる指標を提供することで、消費者が安心して再生端末を購入できるよう、状況を変えていきたいと考えています。

「パソコン復権」となったアフターコロナ時代の「サーキュラー・エコノミー」

武山:昨今は、働き方改革に加えて新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、テレワークを導入する企業も一気に増えました。一方で端末の調達が間に合わないという話も聞きます。

近藤:テレワークで業務を行うとなると、在宅用としてあらたに端末を用意しなければなりません。従業員全員に新品の端末を用意しようとすれば投資額も莫大になります。今はそもそも市場に新品端末が不足している状況にありますね。

武山:確かにテレワークといっても、多くの人はリモート会議や事務がこなせれば十分ですので、最新端末を揃えなくても対応できるはずですね。代わりに「再生端末」を活用すれば、環境保護と同時に費用を大幅に抑えることができるでしょう。

近藤:最近は「パソコン復権」などともいわれ、パソコンの需要が高まっています。しかしながら、ここ数年、スマートフォンへ需要がシフトしたため、パソコン最盛期とされた時代に比べて機種が大幅に減っています。そうした中でパソコンの「再生端末」は消費者の新たな選択肢となり得ます。
キャッシュレス決済の導入など、身近な世界でIT化が急速に進んでいます。予算が限られた中小企業のIT化なども喫緊の課題と言えるでしょう。コロナ禍で中小企業でもテレワークに迫られています。サプライチェーンを担う中小企業のIT化は、産業全体にも影響する問題です。

武山:「パソコン復権」といえば、政府は「Society 5.0時代」に向けて、小中学校において全国一律のICT環境を整備するとして、1人1台の端末を用意する「GIGAスクール構想」を推進しています。

近藤:大学や理系の学生であれば、高性能な端末が必要でしょう。しかし、基本的なパソコン操作やインターネット活用方法、マナーを学ぶ小中高生であれば、必ずしも技術者と同じような最新端末が必要ではありません。それに子どもたちが技術を身につけるには、学校だけでなく自宅でパソコンに触れることも大事です。しかしパソコン購入が家計の負担となるケースもあると思いますので、選択肢のひとつとして「再生端末」を活用してもらいたいと思っています。

選択肢のひとつとして「再生端末」を活用してもらいたいと思っています。

武山:「サーキュラー・エコノミー」というと、「環境問題」を中心に捉えがちですが、お話を伺うと国内経済や身近な生活とも密接に関係しているわけですね。

近藤:今後IoTの社会を迎えるにあたり、IoTを使いこなせる人材の確保が急務です。海外に流出する多くの端末を国内で循環させて、環境を整えていくことが急務だと考えています。客観的な品質のもと、いかに安く安定して再生端末を供給できるか。検査体制の自動化なども含めて引き続き日本国内での「サーキュラー・エコノミー」に取り組んでいきたいと思っています。

  • 武山 知裕
  • 著者:武山 知裕
    (たけやま・ともひろ)
    プロフィール
    國學院大学文学部哲学科卒業。パソコン専門誌の編集、ニュースサイトのディレクター等を務めた後、企業向けIT関連保険の啓発活動を展開。2004年、セキュリティ専門オンラインメディア「Security NEXT」を創刊。エグゼクティブプロデューサーを務める。